、右のことはクリストフから仕向けられた直接の侮辱のように考えられた。アマリアの専制的な心は、人が自分と異った考えをもつことを許せなかった。幾度となくザビーネについて吐いた冷評を、クリストフからないがしろにされたのが、いかにも忌々《いまいま》しく思われるのであった。
 彼女は憚《はばか》りもなくその冷評を彼にくり返し聞かした。彼が傍らにいるたびごとに、彼女は何か口実を設けて隣の女の噂《うわさ》をした。最も侮辱的な事柄を、最もクリストフの気にさわるような事柄を、わざわざ捜し求めた。そして彼女の生々《なまなま》しい眼と言葉とをもってすれば、それを見出すのは訳もなかった。善を施すとともにまた害悪をなす術においても、男よりずっとすぐれている女特有の残忍な本能から、彼女はザビーネの怠惰や道徳的弱点よりもむしろ、その不潔なことを多く言いたてた。彼女の厚かましい穿鑿《せんさく》的な眼は、窓ガラス越しに、家の奥まではいり込み、ザビーネの粉飾《ふんしょく》の秘密まで見通して、不潔な証拠を探り出し、彼女はそれをずうずうしい満足さで並べたてた。礼儀上すっかり言い尽されない場合には、口で言うよりいっそうほのめか
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