くはなかったが、自分で控えることができなかった。そしてはいつもみずから後悔した。なぜなら、彼女はきわめて善良で、だれの悪口をも言うことを好まなかったから。それになおいっそう後悔したわけは、クリストフがいかに夢中になってるかを示す残酷な答えを、いつもそれから招き出した。クリストフは自分の愛情を傷つけられると、相手を傷つけることばかり求めた。そしていつもうまくいった。ローザはなんとも答え返さないで、泣くまいと我慢しながら唇《くちびる》をきっと結び、頭をたれて去っていった。彼女は自分が悪かったのだと考えた。クリストフにその愛する者の悪口を言って心を痛めさしたから、これも当然の報いだと考えた。
 ローザの母の方は、それほど我慢強くなかった。何にでもよく眼が届くフォーゲル夫人は、オイレル老人とともに、クリストフがよく隣の若い女と話をしてることに、間もなく気づいた。恋物語を推察するにかたくはなかった。他日ローザとクリストフとを結婚させようという彼らのひそかな計量は、そのために障害を受けた。相談もせずに勝手にきめたことだし、クリストフにもわかってるはずだとは言えなかったけれど、それでも彼らにとっては
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