……彼女はきわめて傲慢《ごうまん》であり同時に謙譲だったから、愛されないことに苦情を言いはしなかった。苦情を言うなんらの権利もなかった。そしてなおいっそう自分を卑下しようとつとめた。しかし彼女の本能はそれに反抗した。……否、それは不正だ!……なぜこんな醜い身体は自分にだけあって、ザビーネにはないのか。……なぜ人はザビーネを愛するのか。ザビーネは人に愛されるだけのことを何をしたか。……ローザの容赦ない眼に映じたザビーネは、怠惰で、やりっぱなしで、利己的で、だれにも構わず、家のことも子供のこともまた何にも気を止めず、自分の身だけをかわいがり、生きてるのもただ、眠ったりぶらついたりなんにもしないでいるためばかりだった。……そしてそんなことで、人に好かれてるのだ……クリストフに好かれてるのだ……あれほど厳格なクリストフに、何よりもローザが尊重し感服してるクリストフに! それはあまりに不正なことだった。またあまりに馬鹿げたことだった。……どうしてクリストフはそれに気づかなかったのか?――彼女は時々、ザビーネにとってはあまりありがたくない意見を、クリストフの耳に入れざるを得なかった。彼女はそうした
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