した。
 クリストフは恥辱と憤怒とに顔色を変え、布のように蒼白《あおじろ》くなり、唇《くちびる》を震わした。ローザはどういうことになるかわからない気がして、止めてくれと母に願った。ザビーネを弁護しようとさえ試みた。しかしそれはますますアマリアの攻勢を激しくさせるばかりだった。
 そして突然、クリストフは椅子《いす》から飛び上った。彼はテーブルをたたきながら怒鳴りだした。そういうふうに一婦人のことを噂し、その居間をのぞき込み、その浅間しい事柄を並べたてるのは、卑劣きわまることだ。一人離れて暮してゆき、だれにも害をなさずだれの悪口もいわない、善良な美しい穏かな人、それにたいして憤慨する者は、きわめて意地悪な奴《やつ》に違いない。しかし、それで向うの人を傷つけたと思うのは、大した間違いだ。それはただ、向うの人にますます同情を集めさせ、その善良さをますます目だたせるばかりだ。
 アマリアはあまり言いすぎたと感じていた。しかし彼女はクリストフの訓戒が癪《しゃく》にさわった。そして論鋒《ろんぽう》を転じて言った。善良さを云々《うんぬん》するのは訳もないことだ。善良という言葉をもってすれば、なんでも
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