じて、室からぬけ出した。悪戯《いたずら》をする小学生徒のように、家の外に忍び出た。いつまでたってもその仕事が終えるものかと軽蔑《けいべつ》的な口をきいたクリストフを、少しやりこめてやるのが楽しみだった。この憐《あわ》れな娘は、自分にたいするクリストフの感情がどんなものだか、いたずらに知ってるばかりだった。自分で人に会うのがうれしいものだから、他人も自分に会えばうれしいものだといつも考えがちであった。
彼女は表に出た。家の前にはクリストフとザビーネとが腰かけていた。ローザの心は悲しくなった。けれども彼女は、その不穏当な印象を受けてもやめなかった。彼女は快活にクリストフを呼びかけた。その鋭い声音を静かな夜の中に聞いて、クリストフは誤った音符を聞いたような気がした。彼は椅子《いす》の上でぞっとし、怒りに顔をしかめた。ローザは彼の鼻の先に、得意然として刺繍《ししゅう》を振ってみせた。クリストフは苛立《いらだ》ってそれを押しのけた。
「できあがったわ、できあがったわ!」と彼女は言い張っていた。
「ではも一つ始めたらいいでしょう。」とクリストフは冷淡に言った。
ローザはまごついた。喜びはすべて
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