た。クリストフは手のほてりを冷すために石に押しあてた。その片方の手が、靴から出てるザビーネの足先に触れた。そして引離すことができなくてその上を押えた。二人ともぞっと身を震わした。茫《ぼう》として気を失いかけた。クリストフの片手はザビーネの小さな足の細い指先を握りしめていた。ザビーネは汗ばみまた冷たくなって、クリストフの方へ身をかがめてきた……。
 聞き慣れた人声が、その陶酔から二人を呼びさました。二人は震え上った。クリストフは一挙に飛び立ち、また垣根《かきね》を越えた。ザビーネは長衣の中に莢を拾い集めて、家へはいった。中庭から彼はふり向いた。彼女は戸口に立っていた。二人は顔を見合った、雨の細かな粒が木の葉に音をたて始めていた……。彼女は戸を閉ざした。フォーゲル夫人とローザとがもどってきた……。彼は自分の室にはいった……。
 黄色っぽい昼の光が、激しい雨におぼれて消えかかったころ、彼は抗しがたい衝動に駆られてテーブルから立上った。しまってる窓のところへかけつけて、向うの窓の方へ両腕を差出した。同時に、向うの窓に、しまってる窓ガラスの後ろに、室の薄暗がりの中に、両腕をこちらに差出してるザビ
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