。」
「かわいそうな娘さんだこと!」とザビーネは言った。
 二人は黙った。
「ああ、いつも今のようだったら!……」とクリストフは溜息《ためいき》をついた。
 彼女はにこやかな眼で彼の方を見上げたが、また眼を伏せた。彼は彼女が仕事をしてるのに気づいた。
「何をしているんです?」と彼は尋ねた。
 (二人は、両方の庭の間に張られた蔦《つた》の帷《とばり》で隔てられていた。)
「おわかりでしょう。」と彼女は言いながら、膝の上の皿《さら》をもち上げた。「豌豆《えんどう》の莢《さや》をむいていますの。」
 彼女は大きな溜息をもらした。
「でもそれは厭な仕事じゃありません!」と彼は笑いながら言った。
「あらたまりませんわ、」と彼女は答えた、「いつも食べ物のことにかかりあってるのは!」
「きっとあなたは、」彼は言った、「もしできることなら、厭な思いをして食べ物をこしらえるより、食べないですます方の人ですね。」
「ほんとにそうですわ!」と彼女は叫んだ。
「お待ちなさい。手伝ってあげます。」
 彼は垣根《かきね》をまたぎ越して、彼女のそばに来た。
 彼女は家の入口のところで椅子《いす》に腰かけていた。彼は
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