いかねた。文句を途中で言いさして、曖昧《あいまい》のままにした。時とすると、自分で言ってる事柄を恥ずかしがることもあった。息子の顔をながめて話の中途で口をつぐんだ。しかし彼は彼女の手を握りしめてやった。彼女は安心を覚えた。彼はその子供らしいまた母親たる魂にたいして、愛情と憐憫《れんびん》とをしみじみ感じた。幼い時彼はその魂の中に身を縮めていたのであるが、今では向うから彼に支持を求めていた。そして彼以外にはだれにも興味のないその些細《ささい》な無駄話や、常に平凡で喜びもなかったがルイザには限りない価があるように思われた生活の、つまらないそれらの思い出話などに、彼はもの悲しい楽しみを覚えた。また時には、彼女の言葉をさえぎろうとすることもあった。それらの思い出がなおいっそう彼女を悲しませはすまいかと恐れた。そして彼女に寝るように勧めた。彼女は彼の意をさとって、感謝の眼つきで彼に言った。
「いいえ、この方が私には気持がいいんだよ。も少しこうしていましょう。」
二人は夜が更《ふ》けてあたりが寝静まるまで、そのままじっとしていた。それからお寝《やす》みなさいと挨拶《あいさつ》をかわした、彼女は苦
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