しみの荷の一部を肩から降ろしていくらかほっとしながら、そして彼は自分に新しい荷が加わったことを多少悲しく思いながら。
移転の日が迫ってきた。その前日、二人はいつもより長い間、室に燈火もつけずにじっとしていた。たがいに言葉もかわさなかった。時々ルイザは溜息《ためいき》をついた、「ああ、ああ!」クリストフは翌日の引越の種々な細かい事物にばかり注意を向けようとつとめた。彼女は寝ようとしなかった。彼はやさしく彼女を無理に寝さした。しかし彼自身も、自分の室に上っていってから、長く寝床にはいらなかった。窓からのぞき出して、闇《やみ》の中を透しながめ、家の下にある河の真暗《まっくら》な流れを、最後にも一度見ようとした。ミンナの庭に立ち並んだ大木の間に、風の吹き過ぎる音が聞えていた。空は真暗だった。街路には通る人もなかった。冷たい雨が落ち始めていた。風見《かざみ》がきしっていた。隣りの家で子供が泣いていた。夜は重苦しい悲しみで地上にのしかかっていた。時計の時間の単調な音や、三十分と十五分との粗雑な音が、屋根の雨音に点綴《てんてい》されてる陰鬱《いんうつ》な沈黙の中に、相次いで落ちていた。
クリスト
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