に面した窓を開《あ》けて、そこで彼は彼女のそばにすわった。野の景色《けしき》が次第に見えなくなっていった。人々は家に帰りかけていた。小さな燈火が遠くの家々にともっていた。二人は幾度となくそれらのさまを見たことがあった。しかしもう間もなく、それも見られなくなるのだった。二人は途切れがちの言葉をかわした。前からわかってる知れきった夕の些細《ささい》な出来事を、いつも新しい興味で、たがいに話し合った。長く黙り込んでることもあった。あるいはまたルイザは、頭に浮かんでくる思い出を、きれぎれの話を、なぜともなく持出すこともあった。自分を愛してくれる心がそばにあることを感ずると、彼女の舌は少し解けてきた。つとめて話をしようとした。でもそれはむずかしかった。彼女は家の者からわきに離れてる習慣がついていたのである。自分がいっしょに話をするには、息子《むすこ》たちや夫はあまりに怜悧《れいり》すぎると思っていた。皆の話に口を出しかねていた。それでクリストフの孝心深い親切は、彼女にとっては新しいことで、この上もなくうれしいことだった。しかしまたそれに気おくれがした。容易に言葉が出て来なかった。考えをはっきり言
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