いに自分でも困ってることが、よく感じられた。問いと答えとが、苛立《いらだ》たしい沈黙の間にぽつりぽつりと落ちた。クリストフはオットーと二人きりの初めのころのことを思い出した。しかしザビーネに対しては、話題の範囲はさらに狭かった。それに彼女はオットーほどの気長さをもたなかった。つとめてもあまりうまくゆかないことを見てとると、もうつづけて気を入れなかった。あまりに骨を折らなければならなかったので、もう面白くなくなった。彼女は口をつぐんだ。そして彼もそれに倣《なら》った。
 間もなく、すべてはきわめて穏かになった。夜はまた静かになり、二人の心はまた考えにふけった。ザビーネは夢想しながら、椅子《いす》の上にゆるやかに身を揺すっていた。クリストフはそのそばで夢想していた。二人はたがいに何にも言わなかった。三十分もたつと、ある苺《いちご》車の上から生暖かい風が吹き送ってくる酔わすような匂いに、クリストフはうっとりとなって、小声に独語《ひとりごと》を言った。ザビーネはそれに二、三言答えた。それから二人はまた黙った。そのなんとも言えない沈黙とその無関心な数言との魅力を味わった。二人は同じ夢想にふけり、
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