、不思議な快さを感じた。娘は遊びに気をとられて、身をもがいた。クリストフは少しからかってやった。手に噛《か》みつかれた。それで地面に降ろしてやった。ザビーネは笑っていた。二人は子供を見ながら、なんでもない言葉をかわした。それからクリストフは、話の糸口を結ぼうと――(そうしなければならないと思って)――つとめた。しかし言葉の種が豊富でなかった。それにザビーネは、その仕事を少しもやさしくしてくれなかった。彼女は彼が言うことをただくり返すだけで満足した。
「いい晩ですね。」
「ええ、ほんとにいい晩ですわ。」
「中庭では息もつけません。」
「ええ、中庭は息苦しゅうございますね。」
 話は困難になってきた。ザビーネは娘を連れもどす時刻なのをよい機会にして、娘といっしょに家にはいった。そしてもう出て来なかった。
 クリストフは、彼女がその後毎晩同じようにして、ルイザが来ない間は二人きりになるのを避けはすまいかと気づかった。しかしそれは反対だった。翌日は、ザビーネが話を始めようとした。彼女は気が向いてるからというよりもむしろつとめてそうした。話の種を見つけるのにたいそう骨折ってることが、言い出した問
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