はたがいに知らないふうをした。しかし彼は自分を通りこしてかわされてる話の一語をも聞きもらさなかった。ルイザには彼のその無言が反感を含んでるもののように思われた。ザビーネの方はそうは判断しなかった。しかし彼女は彼に気がひけて、多少返辞にまごついた。すると家の中へはいる口実を見つけるのであった。
一週間の間、ルイザは風邪《かぜ》をひいて室にこもった。クリストフとザビーネとは二人きりだった。最初の晩は、二人とも恐《こわ》がっていた。ザビーネはてれ隠しに、娘を膝に抱き上げて、やたらに接吻《せっぷん》しつづけた。クリストフは困って、向うの様子を知らないふうをつづけたものかどうか迷った。変なぐあいになってきた。二人はまだ言葉をかわしたことはなかったが、ルイザのおかげですっかり知り合いになっていた。彼は一、二の文句を喉《のど》から出そうとした。しかしその声は中途でつかえてしまった。すると娘が、こんどもまた二人を当惑から救ってくれた。娘は隠れん坊をしながら、クリストフの椅子《いす》のまわりを回った。クリストフはその途中をとらえて、抱いてやった。彼は元来あまり子供好きでなかったが、その娘を抱きしめると
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