上って行った。彼等は早くから寝た。そしてどんなことがあっても、少しも平素の習慣を変えたがらなかった。九時過ぎには、もはやルイザとクリストフとしか表には残っていなかった。ルイザは終日室の中で過していたから、晩になるとクリストフは、彼女に少し外の空気を吸わせるために、できるだけ誘い出すようにしていた。彼女は一人ではなかなか外に出なかった。往来の喧騒《けんそう》をきらっていた。子供らが鋭い叫びをたてて追駆け合っていた。近所の犬がそれに答えて吠《ほ》えたてていた。ピアノの音が聞え、少し遠くにはクラリネットの音が、隣の街路にはコルネットの音が聞えていた。種々の声が呼びかわしていた。人々がそれぞれ家の前を連れだって行き来していた。ルイザはそういう混雑の中に一人放り出されたら、もうどうにもしようがないと思ったろう。しかし息子《むすこ》のそばにいると、かえってそれが面白く思われるほどだった。物音は次第に静まっていった。子供や犬などがまっ先に寝にいった。人々の群が小さくなっていった。空気はいっそう清らかになった。静寂が落ちてきた。ルイザは細い声で、アマリアやローザから聞いた世間話をした。彼女はそんな話を
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