った。しかしある固定観念に呼びさまされるかのように、夜中に二、三度眼をさました。そして「一人の友をもってる」とくり返しては、またすぐに眠りに入った。
朝になると、すべてが夢のように彼には思われた。それが現実のことであるとみずから確かめるために、前日のことをごく些細《ささい》な点まで思い起こそうとした。音楽を教えてる間にも、なおその方にばかり気がひかれた。午後になってからも、管弦楽の試演の間非常にぼんやりしていたので、そこを出る時にはもう何をひいたのか覚えていなかった。
家に帰ってみると、手紙が待ちうけていた。どこから来た手紙なのか考える要はなかった。自分の室にかけ込み、そこにとじこもって手紙を読んだ。水色の紙に、見分けにくい長めの丹念な手跡で書かれて、ごく几帳面《きちょうめん》な署名がついていた。
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親愛なるクリストフ君――わが畏敬《いけい》せる友、と呼んでよろしいでしょうか。
ぼくは昨日の遊歩のことを非常に考えています。そしてぼくにたいする君の好意を、この上もなく感謝しています。君がされたすべてのことを、君の親切な言葉を、愉快な散歩を、りっぱな御馳走
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