こで彼らはほっと安心して、また手を取り合った。朗らかな夕暮に眺め入って、切れ切れの言葉で話した。
船に乗ると、舳先《へさき》の方に、明るい影の中にすわって、なんでもない事柄を話そうとつとめた。しかし口にする言葉を耳には聞いていなかった。快い懶《ものう》さに浸されていた。話をする必要も、手を取り合う必要も、またたがいに見合わす必要さえも、感じなかった。たがいに接近していたのである。
船がつく間ぎわに、彼らは次の日曜にまた会おうと約束した。クリストフはオットーを門口まで送って行った。ガスの光で、たがいにおずおずと微笑《ほほえ》んで、心をこめたさよなら[#「さよなら」に傍点]をつぶやき合った。別れるとほっとした。それほど彼らは、数時間の緊張した感情に、気疲れがしていたし、沈黙を破ろうとしてちょっとした言葉を発する骨折りに、気疲れがしていた。
クリストフは夜の中を一人でもどって行った。「一人の友をもってる、一人の友をもってる!」と彼の心は歌っていた。何にも眼にはいらなかった。何にも耳に聞えなかった。他のことは何にも考えていなかった。
家に帰るや否や、すぐに眠気がさしてきて、寝入ってしま
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