の食事に費やしてしまっただけで済んだ。
二人はまた丘を降りていった。夕《ゆうべ》の影が樅《もみ》の林に広がり始めていた。林の梢《こずえ》はまだ薔薇《ばら》色の光の中に浮出していて、津波のような音をたてながら厳《おごそ》かに波動していた。一面に散り敷いた菫《すみれ》色の針葉が、足音を和らげた。二人とも黙っていた。クリストフは不思議なやさしい悶《もだ》えが心にしみ通るのを感じた。幸福であった。口をききたかった。悩みの情に胸苦しかった。彼はちょっと立止まった。オットーも同じく立止まった。すべてがひっそりしていた。蠅《はえ》の群がごく高く光の中に飛び回っていた。枯枝が一本落ちた。クリストフはオットーの手を握り、震える声で尋ねた。
「僕の友だちになってくれない?」
オットーはつぶやいた。
「ああ。」
彼らはたがいに手を握りしめた。胸は動悸《どうき》していた。顔を見合わすこともかろうじてであった。
やがて彼らはまた歩き出した。二、三歩離れて歩いた。林の縁まで一言ももう言わなかった。彼らは自分自身と自分の不思議な感動とを恐れていた。足を早め、立止まりもせず、ついに木立の影から出てしまった。そ
前へ
次へ
全221ページ中82ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング