は示さなかった。しかしディーネルは献立を注文しながらわざと主人公らしい調子を使って、自分の権利を肯定しようとつとめた。クリストフはその心持を覚《さと》って、他のこった料理を注文しながら、上手に出た。彼はだれにも劣らず懐《ふところ》ぐあいのよいことを示そうとした。ディーネルはまた新たに策をめぐらして、葡萄《ぶどう》酒を選む役目を受持とうとした。クリストフはそれをじろりとにらみつけて、その料理屋にある最も高価な地産葡萄酒を一|瓶《びん》、もって来さした。
りっぱな食事に臨むと、彼らは気がひけた。もう話すこともなかった。窮屈そうなぎごちない様子で、こそこそ食べていた。するとにわかに、たがいに他人同士の間であることに気づいて、警戒し合った。会話を活気だたせようとつとめても、なんの甲斐《かい》もなく、じきに言葉が途絶えてしまった。初めの三十分ばかりは退屈でたまらなかった。が幸いにも、やがて食事の効果が現われてきた。二人の客はいくらか親しげに顔を見合わすようになった。とくにクリストフは、そういう御馳走《ごちそう》に慣れていなかったので、妙に饒舌《じょうぜつ》になった。彼は生活の困難を語った。オッ
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