という、すでにいかなるものになってるかという、おぼろなしかも力強い意識!……彼は現在なんであるか? 管弦楽においてヴァイオリンをひき、凡庸な協奏曲《コンセルト》を書いている、病弱な神経質な一少年にすぎないのか?――否。そういう少年の域をはるかに脱しているのだ。それは表皮にすぎない、一時の顔貌《がんぼう》にすぎない。それは彼の本体ではない。彼の深い本体と、彼の顔や思想の現形との間には、なんらの関係も存しない。彼自身よくそれを知っている。鏡で見る姿を、おのれだとは認めていない。大きな赤ら顔、つき出た眉《まゆ》、くぼんだ小さな眼、小鼻がふくれ先が太い短い鼻、重々しい頤《あご》、むっつりした口、そういう醜く賤《いや》しい面貌は、彼自身にとっては他人である。彼はまた自分の作品中にはなおさらおのれを認めていない。彼は自分を判断し、現在自分が作ってるものの無価値と、現在の自分の無価値とを、よく知っている。けれども彼は、将来いかなるものになるか、将来いかなるものを作るか、それに確信をもっている。彼は時おりその確信を、高慢から出る虚妄《きょもう》として、みずからとがめる。そしてみずから罰せんがために、苦
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