々《にがにが》しくおのれを卑下しおのれを苛責《かしゃく》して、喜びとする。しかし確信は存続し、何物からも動かされない。いかなることをなし、いかなることを考えようとも、そのいずれの思想も行為も作品も、完全におのれを含有しおのれを表現してはいない。彼はそれを知っている。彼は不思議な感情をいだいている。自分の最も多くは、現在あるがままの自分ではなくて、明日あるだろう[#「明日あるだろう」に傍点]ところの自分であると。……きっとなってみせる[#「きっとなってみせる」に傍点]!……彼はそういう信念に燃えたち、そういう光明に酔っている。ああ、今日[#「今日」に傍点]によって中途に引止められさえしなければ! 今日[#「今日」に傍点]によって足下にたえず張られてる陰険な罠《わな》へ陥《おちい》って蹉跌《さてつ》することさえないならば!
 かくて彼は、日々《にちにち》の波を分けておのれの小舟を進めながら、側目《わきめ》もふらず、じっと舵《かじ》を握りしめ、目的の方へ眼を見据えている。饒舌《じょうぜつ》な楽員らの中に交って管弦楽団の席にいる時にも、家の者にとり巻かれて食卓についている時にも、高貴な愚人たち
前へ 次へ
全221ページ中71ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング