るのみであった。ごく早くから、神経の不調がきざしていた。まだ幼いころから、何かの障害を感ずると、気絶や痙攣《けいれん》や嘔吐《おうと》を起こした。七、八歳のころ、ちょうど音楽会に出始めた時分には、睡眠が落着いて得られなかった。眠りながら、話したり叫んだり笑ったり泣いたりした。そういう病的な傾向は、強い懸念《けねん》事があるごとにくり返された。やがては、激しい頭痛が起こって、あるいは頸窩《ぼんのくぼ》や頭の両側がぴんぴん痛み、あるいは鉛の兜《かぶと》をかぶったような気持になった。よく眼をなやんだ。時には、針先を眼孔にさし込まれたような感じがした。また眼がちらついて書物を読めなくなり、幾分間も読みやめなければならなかった。不足なあるいは不健康な食物と、食事の不規則とは、頑健な胃をいためてしまった。内臓の痛みに悩まされ、身体を衰弱させる下痢に悩まされた。しかし彼を最も苦しめたのは、心臓であった。彼の心臓は狂ったように不整であった。あるいは、今にも張り裂けるかと思われるばかりに、胸の中で激しく躍《おど》った。あるいは、かろうじて鼓動してるだけで、今にも止まってしまうかと思われた。夜は、体温が恐
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