はただ、善良な母親とだけ、たがいの愛情の覊《きずな》を感じていた。しかしルイザは、彼と同様にいつも疲れはてていた。晩には、もう気力もつきはてて、ほとんど口もきかず、食事を済すと、靴下《くつした》を繕《つくろ》いながら、椅子《いす》にかけたまま居眠りをした。そのうえ彼女は、いかにも人がよくて、夫と三人の子供との間に、少しも愛情の差をおいていないらしかった。皆を一様に愛していた。クリストフは彼女を、自分が非常に求めてる腹心の人とするわけにゆかなかった。
 彼はただ自分の心のうちに閉じこもった。いく日間も口をきかないで、黙々たる一種の憤激をもって、単調な骨の折れる務めを尽した。敏感な身体の組織が、あらゆる破壊的誘因に巻き込まれて、将来全生涯の間変形されやすい、危急な年齢にある少年にとっては、そういう生活法はいたって危険なものだった。クリストフの健康は、それにはなはだしく害された。彼は父祖から、堅固な骨格と、弱点のない健《すこや》かな肉体とを、受け継いではいた。けれども、過度の疲労と早熟な憂慮とのために、苦痛のはいり込みうる割目をこしらえられると、その強健な身体も、苦痛に多くの糧《かて》を与え
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