やはり失敗した。ちょっと感興が起こった後に、書いてる間に、書いたものがまったく無価値なのに気づいた。彼はそれを引裂き、焼き捨てた。そしてさらに恥ずかしいことには、式典用の自分の公《おおやけ》の曲が廃滅できずにそのまま残ってるのを、見なければならなかった。それは最も凡庸《ぼんよう》なものばかりで――大公爵の誕生日のために作った、大鷹[#「大鷹」に傍点]という協奏曲《コンセルト》、大公爵令嬢アデライドの結婚のおりに書いた、パラスの婚礼[#「パラスの婚礼」に傍点]という交声曲《カンタータ》――多くの費用をかけ豪華版として刊行され、彼の愚鈍さを長く後世に伝えるものだった。彼は後世を信じていたのである。彼はその恥辱に泣きたいほどだった。
熱烈なる年月! なんらの猶予もなく、なんらの怠慢もない。何物もその熱狂的な勉励をさえぎらない。遊戯もなく、友もない。どうして友と遊んでなどいられよう。午後、他の子供らが遊んでる時にも、少年クリストフは額に皺《しわ》を寄せて注意を凝らしながら、埃《ほこり》深い薄暗い劇場の広間に、奏楽席の譜面台に向かってすわっている。晩、他の子供らが寝ている時にも、彼は椅子《いす
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