、寝床から飛び起きて走っていった。しかしメルキオルはいかにも厭な泥酔の様子でもどって来たので、クリストフは近寄るだけの勇気もなかった。そして自分の空《くう》な考えを苦々《にがにが》しく嘲《あざけ》りながら、また寝に行った。
数日の後、その出来事を知ると、メルキオルは恐ろしい忿怒《ふんぬ》にとらわれた。そしていかにクリストフが願っても聞き入れないで、宮邸に怒鳴り込んでいった。しかしすっかりしょげきってもどって来、どういうことがあったか一言もいわなかった。彼はひどい取扱いを受けたのだった。どの口でそんなことが言えるか――息子の技倆を考えてやればこそ給料を元どおり与えてるのであって、将来わずかな不品行の噂《うわさ》でもあれば給料は全部取り上げてしまうと、言われたのだった。で彼はその日からただちに自分の地位を是認し、みずから進んで犠牲[#「犠牲」に傍点]となってることを自慢にさえした。そういう父の様子を見て、クリストフはたいへん安堵《あんど》した。
それにもかかわらずメルキオルは、妻や子供らのために剥《は》ぎ取られてしまい、生涯彼らのために痩《や》せ衰え、今や万事に不自由しても顧みられない
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