クリストフは狼狽《ろうばい》して出て行った。
「クリストフさん、気を悪くしてはいけないよ。」とふたたび彼が事務所を通りぬける時に役人が親しげに言った。クリストフは眼をあげる元気もなく、引止められて握手をされるままになっていた。
 彼は宮邸の外に出た。恥ずかしさに縮み上がっていた。言われたことが残らず頭に浮かんできた。そして、自分を立ててくれ自分を気の毒に思ってくれる人々の憐憫《れんびん》の中に、侮辱的な皮肉が感ぜられるような気がした。彼は家に帰った。ルイザから問いかけられても、今なして来た事柄について彼女を恨んでるかのように、ただむっとした二三言でようやく答えるきりだった。父のことを考えると、後悔の念に胸が張りさけそうだった。すっかり父にうち明けて、その許しを乞《こ》いたかった。メルキオルはそこにいなかった。クリストフは眠りもしないで、真夜中まで彼を待っていた。父のことを考えれば考えるほど、ますます後悔の念は高まってきた。彼は父を理想化していた。家の者らに裏切られた、弱い、善良な、不幸な人間だと、頭に描いていた。父の足音が階段に聞こえると、出迎えてその両腕の中に身を投げ出すために
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