などと、よそへ行って嘆かずにはおかなかった。あるいはまたクリストフから金を引出そうとつとめて、あらゆる阿諛《あゆ》や策略を用いた。それを見るとクリストフは、心にもなく笑いだしたくなるほどだった。そしてクリストフがしっかりしてるので、メルキオルは言い張りはしなかった。自分を判断してるその十四歳の少年の厳格な眼の前に出ると、不思議に気圧《けお》されるのを感じた。悪い手段をめぐらしてひそかに意趣晴しをした。酒場へ行って飲んだり食ったりした。金は少しも払わないで、息子が借りをみな払ってくれるのだと言った。クリストフは世間の悪評をつのらしはすまいかと気遣って、別に抗議をもち出さなかった。そしてルイザとともに、財布の底をはたいてメルキオルの借りを払っていた。――ついにメルキオルは、給料を手にしなくなってからは、ヴァィオリニストの職務をますます等閑《なおざり》にするようになった。そして欠勤があまり激しくなったので、クリストフの懇願にもかかわらず、しまいには追い払われてしまった。それで子供は、父と弟どもなど全家を、一人で支持してゆかなければならなくなった。
かくてクリストフは、十四歳にして家長となっ
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