すっかり厄介払《やっかいばらい》をしてやると言った時、クリストフは高い叫び声をあげた。祖父の家を、クリストフが幼年時代の最も美しい時間を過ごしたその大事な家を、売り払ってしまうために、祖父の道具をすっかりもち込んで来てからは、どの室もいっぱいふさがってるというのは、ほんとうだった。またその古ピアノは、もうたいした価値もなくなっており、音は震えるようになっていて、久しい以前からクリストフはそれを捨て、大公爵から賜わった新しいりっぱなピアノをばかりひいているというのも、ほんとうだった。しかしその古ピアノは、いかに古くいかに不具であろうとも、クリストフにとっては最良の友であった。それは音楽の無辺際《むへんざい》な世界を子供に開き示してくれた。その艶《つや》やかな黄色い鍵盤《キイ》の上で、子供は音響の王国を発見した。それは祖父の手になったもので、祖父は孫のために数か月かかってそれを修理したのだった。それは聖《きよ》い品であった。それゆえクリストフは、だれにもそれを売るの権利はないと抗弁した。メルキオルは黙れという命令を様子で知らした。クリストフは、そのピアノは自分のもので人に手を触れさせるもの
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