祖父の回復を念ずるルイザの祈祷《きとう》をいっしょにくり返しながら、彼は心の底で、もし祖父がなおらないものなら、もう死んでしまっていてくれるようにと祈った。これから起こるべき事柄を怖《お》じ恐れていた。
 老人は倒れた瞬間からすでにもはや意識を失っていた。ただ一時、ちょうど自分の容態がわかるだけの意識を回復した――それは痛ましいことだった。牧師が来ていて、彼のために最後の祈祷を誦《しょう》していた。老人は枕の上に助け起こされた。重々しく眼を開いた。その眼ももはや意のままにならないらしかった。騒がしい呼吸をし、訳がわからずに人々の顔や燈火を眺めた。そして突然、口を開いた。名状しがたい恐怖の色が顔付に現われていた。
「それじゃ……」と彼は口ごもった、「それじゃ、わしは死ぬのか!」
 その声の恐ろしい調子が、クリストフの心を貫いた。その声はもう永久に彼の記憶から消えないものとなったのである。老人はそれ以上口をきかなかった。幼児のように呻《うめ》いていた。それからふたたび麻痺《まひ》の状態に陥った。しかし呼吸はなおいっそう困難になっていた。彼はぶつぶつ言い、両手を動かし、死の眠りと争ってるよう
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