句が記憶に浮かんできた。ケリッヒ夫人がその乱暴きわまる文句を読むことを考えると、冷たい汗が流れた。最初のうちは絶望そのもののために気が張っていた。しかし翌日になると、手紙は自分をまったくミンナから引離してしまうほかには、なんらの結果ももたらさないだろうということを、彼は覚った。それは最大の不幸のように思われた。ケリッヒ夫人は自分の癇癪《かんしゃく》をよく知っているから、これも真面目《まじめ》にとらないで、ただきびしく叱《しか》るだけにしてくれて、そのうえ――ひょっとしたら――自分の熱情の真摯《しんし》なのにおそらく心を動かしはすまいか、などと彼はなお希《こいねが》った。ただ一言いってさえくれれば、彼女の足下に身を投げだすつもりだった。彼はその一言を五日間待った。やがて手紙が来た。彼女は次のように言ってよこした。
[#ここから2字下げ]
親愛なるお方
あなたの御意見によれば、私どもの間には誤解がありますそうですから、最も賢い方法は、もちろん、それを長引かせないことであります。あなたにとって苦痛となった御交際を、このうえあなたに求めるのは、私には心苦しく思われます。それですから、
前へ
次へ
全221ページ中211ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング