ですよ。……身分も……。」
 彼女は言ってしまうに及ばなかった。それは彼の骨の髄までさし通す針であった。彼の眼は開けた。彼はやさしい微笑の皮肉さを見た。親切な眼付の冷たさを見た。実子のような愛情で自分が慕ってるこの婦人、母親のような態度で自分に接してくれてるらしいこの婦人、それと自分とを隔ててるすべてのものを、にわかに彼は了解した。彼女の愛情のうちにある庇護《ひご》と軽蔑《けいべつ》とのすべてを、彼は感じた。彼は真蒼《まっさお》になって立上がった。ケリッヒ夫人はなお愛撫《あいぶ》の声で、話しつづけていた。しかしもう万事が終っていた。彼の耳には、彼女の言葉も音楽のようには響かなくなった。その一語一語の下に、その優雅な魂の無情さが見抜かれた。彼は一言も答えることができなかった。彼は立去った。まわりのものが皆ぐるぐる回った。
 彼は自分の室にもどると、寝台の上に身を投げだした。幼かったころのように、憤りと傲慢《ごうまん》な反抗心とのあまりに痙攣《けいれん》を起こした。喚《わめ》き声を人に聞かれないように、枕《まくら》に噛《か》みつき、口にハンケチを押し込んだ。彼はケリッヒ夫人を憎んだ。ミンナ
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