夜の九時だった。彼女らは二人とも客間にいた。彼の姿を見ても別に驚いた様子はなかった。静かに今晩はと言った。ミンナは手紙を書いていたが、テーブルの上から彼に手を差出し、なお書きつづけながら、気乗りのしない様子で彼の消息を尋ねた。そのうえ、自分の失礼を詫《わ》び、彼の言葉に耳傾けてるふうをしていた。しかしちょっと彼の言葉をさえぎっては母に何か尋ねたりした。彼はその留守の間どんなに苦しんだか、それについて痛切な言葉を用意していた。けれどようやく数語をつぶやきえたばかりだった。だれも気を入れて聞いてくれず、彼は言いつづけるだけの元気もなかった。自分の言葉が妙に空《から》響きがした。
 ミンナは手紙を終えると、編物を取り上げ、彼から数歩のところにすわって、旅の話を始めた。楽しく過ごした数週間、馬上の散歩のこと、別荘生活のこと、面白い交際社会のこと、などを話した。しだいに調子に乗って、クリストフの知らない出来事や人々の上に話を向け、母と彼女とはその追憶に笑いだした。クリストフはその話の中で、まったく圏外にいる心地がした。どういう顔付をしていいかもわからず、当惑したような様子で笑っていた。ミンナの顔
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