ミンナは眼を拭《ふ》きながら、召使らにたいして高慢ちきな様子にかえった。しかしその声は震えていた。
 彼はうまく、彼女の落したハンケチを盗み取った。よごれた、皺《しわ》くちゃの、涙にぬれた、小さなハンケチだった。
 彼は二人の女友だちと同じ馬車に乗って、停車場までついていった。二人の子供は、たがいに向き合ってすわりながら、涙にむせかえるのを恐れて、ろくに顔も見合わしえなかった。彼らの手は、たがいにそっと探り合って、痛いほどひしと握りしめた。ケリッヒ夫人はずるいお人よしの様子で二人の素振りを見守っていた、そして何にも気づかないふりをしていた。
 ついにその時刻となった。クリストフは列車の入口近くに立っていたが、列車が動き出すと、それと並んで走り出し、前方に眼もくれず、駅員らをつきとばし、ミンナと眼を見合していたが、ついに列車から追い抜かれてしまった。それでもやはり走りつづけて、何にも見えなくなるまでは止まらなかった。見えなくなると、息を切らして立止まった。顧みると、プラットフォームにたたずんで他人の間に交じっていた。彼は家にもどった。幸いに家の者は出かけていた。その朝じゅう、彼は泣いた。
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