気味にお早うと言った。ついにミンナが出て来た。蒼《あお》ざめた顔をして、眼をはらしていた。昨夜は、彼と同じに眠れなかったのである。彼女は忙しそうに召使らに用を言いつけていた。老婢フリーダに口をききつづけながら、クリストフに手を差出した。もう出発の用意ができていた。ケリッヒ夫人もまたやって来た。彼女らはいっしょに、帽子のボール箱について相談し合った。ミンナはクリストフになんらの注意も払っていないらしかった。クリストフは忘れられて悲しそうに、ピアノのそばにじっとしていた。ミンナは母とともに出て行った。それからまたはいって来た。入口でなお、ケリッヒ夫人に何やら叫んだ。彼女は扉を閉めた。二人きりになった。彼女は彼のところへ走り寄り、彼の手をとり、雨戸をしめきった隣りの小客間へ引き込んだ。そして彼女は、にわかにクリストフの顔へ自分の顔を近寄せ、力いっぱいに彼を激しく抱擁した。彼女は泣きながら尋ねた。
「約束してちょうだい、約束してちょうだい、いつまでも私を愛してくださるの?」
二人は低くすすり泣いた。人に聞かれないように、痙攣《けいれん》的な努力をした。足音が近づいて来るので、たがいに離れた。
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