ないでもなかったので、普通より五分ばかり長く待たしただけで、そこに出て来た。そして、クリストフのことなんか眼中にないかのように、ふり向きもせず、一言もいわず、まっすぐにつんとして、ピアノの前に行ってすわった。それでもやはり、彼から稽古を受けたし、なお引きつづいて彼から学んだ。というのは、クリストフが音楽に通じてることをよく知っていたし、また、自分がなろうと考えてるもの、すなわち生まれのよいりっぱな教育のある令嬢――それになろうとするには、ピアノをよく覚えなければならないということを、よく知っていたからである。
けれども、彼女はいかに退屈してたことだろう! 彼らは二人とも、いかに退屈してたことだろう!
霧深い三月のある朝、細かな雪が羽毛のように灰色の空中に飛び舞っていた時、二人は研究室《スチューディオ》にいた。室内はほの暗かった。ミンナは音符を一つ間違えて、いつものとおり言い争い、「そう書いてある」と言い張った。彼女が嘘《うそ》を言ってることはよくわかっていたけれども、クリストフは楽譜の上に身をかがめ、問題の楽節をまぢかに見ようとした。彼女は譜面台の上に片手を置いていて、それをのけ
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