ずえ》から伝わっていた……)――彼は心からしみじみと幸福を感じた。と突然、わけもなく、彼は椅子《いす》から飛び上がって、ケリッヒ夫人の膝《ひざ》に身を投げ、その手を、針をもってる時ももってない時もあったが、その手をとってやたらに接吻しながら、口や頬《ほお》や眼を押しあててすすり泣くのであった。ミンナは書物から眼を上げ、軽く肩をそびやかして、かわいらしく口をとがらした。ケリッヒ夫人は、自分の足下に転がっている大子供を微笑《ほほえ》みながらうち眺め、自由な片方の手でやさしく彼の頭をなでてやり、情けのあるまた皮肉な美しい声で言うのであった。
「まあ、お馬鹿さんね、どうしました?」
ああいかに楽しいことであるか、その声、その平和、その静寂、叫びも衝突も乱暴もないその柔い空気、辛《つら》い生活のさ中のオーシス、そして――事物や人々を金色の反映で染める霊妙な光輝――力と苦悩と愛との急湍《きゅうたん》たる、ゲーテやシルレルやシェークスピアなど、神のごとき詩人の作を読みながら浮かび出す、その玄妙なる世界の霊妙な光輝……。
ミンナは書物の上に頭を傾《かし》げ、文章に熱して軽く顔を染め、さわやかな声で
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