驚くべき平然さをもって、おのれの夢想を忘れてしまうものである。
要するに、ミンナは感傷的だが冷静であった。貴族的な名前とそれから来る矜《ほこ》りの念とにもかかわらず、彼女は青春の妙齢に達すると、ドイツの小家庭の主婦らしい魂をもっていた。
クリストフはもとより、婦人の心の複雑な――実際よりも外見の方がいっそう複雑な――構造を、少しも了解していなかった。二人の美しい女友だちのやり方に、しばしば面食《めんくら》った。しかし彼女らを愛するのが非常に嬉《うれ》しかったので、多少自分を不安になし悲しませる彼女らの様子もみな許してやって、こちらと同じように向うからも愛されてると思い込もうとした。情けある一言や一|瞥《べつ》に、彼は夢中になって喜んだ。時には涙を流すほど心が転倒することもあった。
静かな小さい客間の中で、ランプの光で裁縫をしてるケリッヒ夫人から数歩のところに、テーブルの前にすわっていると――(ミンナはそのテーブルの向う側で、書物を読んでいた。二人は話もしなかった。庭に向かってる半開きの扉《とびら》から、小径《こみち》の砂が月光に輝いてるのが見えていた。軽いささやきが木々の梢《こ
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