えながら自分のうちに描き出し、眼に見るすべてのものと混同するのである。消え失せた獣類、虚無に近い最初の日の幻覚、母胎の中における恐ろしい眠り、物質の奥底にある妖鬼《ようき》の目覚め、そういうものの最後の名残りに違いない。
 彼は屋根裏の室の扉を恐れた。それは階段の真上にあって、いつもたいてい半開きになっていた。その前を通らなければならない時には、胸の動悸《どうき》を彼は感じた。元気をつけながら見向きもしないで駆け通った。扉の後ろには、だれかがまたは何かがいるような気がした。扉が閉まってる時には、半開きの猫穴《ねこあな》から、向うで何か動いてるのがはっきり聞こえた。そこには大きな鼠《ねずみ》がいたので別に驚くにもあたらないことではあったが、それでも彼は種々なものを想像した、恐ろしい怪物、ばらばらになった骨、襤褸《ぼろ》のような肉、馬の頭、人をにらめ殺すような眼、えたいの知れない物の形。彼はそんなもののことを考えたくなかったが、それでもやはり考えた。震える手先で、掛金がちゃんとささってるのを確めた。それでもなお、階段を降りゆきながら、十遍以上も振り向かざるをえなかった。
 彼は戸外の夜を恐
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