たことがなかった。ただ自分を害する事物にたいして奮激した。父の乱暴な行ない、いつも彼が殴り合いをする街頭の悪童仲間の乱暴な行ない、それが彼に強く沁《し》み込んでいた。彼は殴られることを恐れなかった。鼻血を出し額に瘤《こぶ》をこしらえてもどって来ることもしばしばだった。ある日などは、いつもの激しい喧嘩《けんか》の中から、ほとんど気絶しかかってる彼を引き出してやらなければならなかった。彼は相手に組み敷かれて、舗石の上にひどく頭を打ちつけられていた。それくらいのことはあたりまえのことだと彼は思っていた、自分がされるとおりにまた他人にも仕返しをしてやるつもりだったから。
けれども彼は、数多《あまた》の事物を恐《こわ》がっていた。そしてだれにも気づかれなかったが――なぜならきわめて傲慢《ごうまん》だったから――しかし彼は少年時代のある期間中、それらのたえざる恐怖から最も苦しめられた。とくに二、三年の間は、それが一つの病気のように彼の内部をさいなんだ。
彼は影のうちに潜んでる神秘を恐れた、生命に狙《ねら》い寄ってるように思われる邪悪な力を、怪物らのうごめきを。それらの怪物を幼い頭脳は、恐怖に震
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