首に巻きつけて、その両端を力任せに引っ張っていた。みずから首を絞めようとしていたのである。
 彼を家にもどすよりほか仕方がなかった。

 クリストフは容易に病に侵されなかった。父や祖父から頑健《がんけん》な体格を受け継いでいた。一家の者は弱虫でなかった。病気であろうとあるまいと、決して愚痴を言わなかった。どんなことがあっても、クラフト父子二人の習慣は少しも変わらなかった。いかなる天気であろうと、夏冬のかまいなしに、外へ出かけ、時とすると、不注意のせいかあるいは豪放を気取ってか分らないが、帽子もかぶらず胸をはだけて、いく時間も雨や日の光にさらされ、あるいはまたいくら歩いても決して疲れる様子がなかった。そういう時あわれなルイザは、何も訴えなかったが、顔の色を失い、脚《あし》はふくらみ、胸は張り裂けるほど動悸《どうき》がして、もう歩けなくなった。彼らはその様子を、憐れむような軽蔑《けいべつ》の眼付で眺めた。クリストフも母親にたいする彼らの軽侮の念に多少感染していた。彼は病気になるということを理解できなかった。彼は倒れても、物にぶっつかっても、怪我《けが》をしても、火傷《やけど》をしても、泣い
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