とおりの者となるであろう、その選手と、その復讐《ふくしゅう》者と、なっておりあるいはなるであろう。そして、おのれのためにするかかる傲慢《ごうまん》な隠退のうちには、愛と利己心とが驚くばかりの力とやさしみとをもって相混和している。でクリストフも、父にたいするあらゆる不満をうち忘れて、父を賛美する理由を見出そうと努めていた。そして父の身体つき、その頑丈《がんじょう》な腕、その声、その笑い、その快活、などを彼は賛美した。父の妙技が賛《ほ》められるのを聞く時、あるいはメルキオル自身で人から受けた賛辞を誇張して述べたてる時、彼は得意の情に顔を輝かした。彼は父のおおげさな自慢話をほんとうだと信じた。そして天才として、祖父から聞いた英雄の一人として、父を眺めていた。
ところがある晩、七時ごろ、彼は一人で家に残っていた。弟たちはジャン・ミシェルと散歩に出ていた。ルイザは河でシャツを洗っていた。扉が開いてメルキオルが突然はいってきた。帽子もかぶらず、胸ははだけていた。一種の跳踊《はねおどり》をやってはいって来て、テーブルの前の椅子《いす》にどっかと腰を落とした。クリストフはまた例の茶番だと思って笑い出
前へ
次へ
全221ページ中87ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング