けられると、それを黙らせようとして穏かに努めた。しかしクリストフにはその理由が分らなかった。彼は陽気なことを非常に望んでいたので、父がもどってきて騒ぎたてるのを楽しみとしていた。家の中は陰気だった。そしてそんな馬鹿騒ぎは彼にとって一種の気安めだった。メルキオルのおどけた身振りや馬鹿げた戯れを、彼は心から笑い興じた。いっしょに歌ったり踊ったりした。母が不機嫌《ふきげん》な声でそれを止めさせるのは、不都合なことだと思っていた。父がすることだから、どうして悪いことがあろう? 彼の小さな観察力は常に覚めていて、見たことは何一つ忘れなかったので、正理にたいする彼の幼い一徹な本能に合致しない多くのものを、父の行ないのうちに認めてはいたけれども、なお彼はやはり父を賛美していた。それは子供のうちにある強い欲求である。確かに永遠の自愛の一つの形であろう。人はおのれの欲望を実現しおのれの高慢心を満足させるにはあまり自分が弱いことを認める時、それらのものを他に移しすえる、子供はその両親の上に、人生に敗れた大人はその子供らの上に。かく希望をかけられた人々は、夢想されたとおりの者となっており、あるいは夢想された
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