ち、彼女はその糸を巻いていた。すると突然、彼女は何もかも投げ出して、夢中に彼を引き寄せた。彼はもうたいへん重くなっていたけれど、彼女は彼を膝《ひざ》にのせて、抱きしめた。彼は彼女の首に強く抱きついた。そして彼らは、絶望に陥ったがようにたがいに抱擁しながら、二人とも涙を流した。
「かわいそうに!……」
「お母さん、ああお母さん!……」
彼らはそれ以上何も言わなかった。しかしたがいに了解し合っていた。
クリストフはかなり長い間、父が酒飲みであることに気付かなかった。メルキオルの放縦は、少なくとも初めのうちはある限度を越えなかった。それは決してひどいものではなかった。むしろ非常な上|機嫌《きげん》の発作となって現われていた。彼はテーブルをたたきながら、いく時間もつづけて、愚にもつかぬことを述べたてたり、大声で歌ったりした。時とすると、ルイザや子供たちといっしょにどうしても踊るといってきかなかった。クリストフは母が悲しい様子をしてるのをよく見てとった。彼女はわきに引込んで、俯向《うつむ》いて仕事をしていた。酔っ払いを見まいとしていた。そして顔が赤くなるほど露骨な戯談《じょうだん》を言いか
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