とちょうど、もどってくる父に彼はぶっつかった。
「何をしてるんだ、悪戯《いたずら》児め。どこへ行くんだ?」とメルキオルは尋ねた。
 彼は答えなかった。
「何か馬鹿なことをしたんだな。何をしたんだ?」
 クリストフは強情に黙っていた。
「何をしたんだ?」とメルキオルはくり返した。「返辞をしないか?」
 子供は泣き出した。メルキオルは怒鳴り出した。そしてたがいにますますひどくやってると、ついにルイザが階段を上ってくる急ぎ足の音が聞えた。彼女はまだすっかりあわてきったままもどって来た。そしてまず激しく叱《しか》りつけながら、ふたたび彼を打ち始めた。メルキオルも事情が分るや否や――否おそらく分らないうちから――牛でも殴るような調子でいっしょになって平手打を加えた。二人とも怒鳴りたてていた。子供はわめきたてていた。しまいには彼ら二人で、同じ憤りからたがいに喧嘩《けんか》を始めた。子供を殴りつけながらメルキオルは、子供の方が道理《もっとも》だと言い、金をもってるから何をしてもかまわないと思ってる奴らの家に働きに出かけるからこそ、こんなことになるんだと言った。またルイザは子供を打ちながら、あなたこそ
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