しかし彼は足をふみ鳴らし、わめきたて、母の手に噛《か》みついた。そしてしまいには、笑ってる召使らの間に逃げ込んでしまった。
彼は胸がいっぱいになり、憤りと打たれた跡とで顔をほてらして、立ち去っていった。何にも考えまいと努めた。往来で泣くのがいやなので足を早めた。涙を流して心を和げるために、どんなにか家に早く帰りたかった。喉《のど》がつまり頭が逆上《のぼ》せていた。彼はわっと泣き出した。
ついに家へ着いた。黒い古階段を駆け上って、河に臨んだ窓口のいつもの隠れ場所までやっていった。そこで息を切らして身を投げ出した。涙がどっと出て来た。なぜ泣くのか自分でもよくは分らなかった。けれど泣かずにはおられなかった。そして初めの涙がほとんど流れつくしても、なお泣いた。自分とともに他人をも罰せんとするかのように、自分自身を苦しめるために、憤りの念に駆られてやたらに泣きたかったのである。それから彼は考えた、父がやがて帰って来るだろう、母は何もかも言いつけるだろう、災はまだなかなか済みはしないと。どこへでもかまわないから逃げ出してしまって、もう二度と帰っては来まい、と彼は決心した。
階段を降りかけてる
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