。しかし彼女はまたすぐに目上らしい様子をして、行状だの信仰だのについて種々な問いをかけた。彼は少しも返辞をしなかった。彼女はまた彼の着物がよく似合うかどうかを眺めた。ルイザは急いで着物がりっぱになったのをお目にかけた。そして襞《ひだ》を伸すために上着をやたらに引張った。クリストフは非常に窮屈になって声をたてたいほどだった。なぜ母親がお礼を言ってるのか、彼には少しも分らなかった。
夫人は彼の手を取って、自分の子供たちのところに連れて行きたいと言い出した。クリストフは困り切った眼付で母をちらと眺めた。しかし母はいかにも慇懃《いんぎん》な様子で御主人に笑顔を見せていたので、もうなんの希望もないことを彼は見てとった。そして彼は屠所《としょ》に牽《ひ》かるる羊のように、夫人の案内に従っていった。
二人は庭にやって行った。そこには無愛相な二人の子供がいた。クリストフとほぼ同じ年ごろの男の子と女の子とだったが、何かたがいに気を悪くしてるらしかった。ところがクリストフが来たのでそれがまぎれた。彼らは近寄って来て新参者をじろじろ眺めた。クリストフは夫人から置きざりにされて、径《みち》につっ立ったまま
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