をその働いてる家へ尋ねていった。ただ一人ではいってゆくことを考えると気後《きおく》れがした。一人の給仕が玄関にぶらぶらしていた。彼は子供を引止めて、何しに来たかといたわるような調子で尋ねた。クリストフは顔を赤くして、「クラフト夫人」――言いつけられたとおりの言葉を使って――に会いに来たのだと口籠《くちごも》りながら答えた。
「クラフト夫人だって? なんの用だい、クラフト夫人に?」と給仕は夫人という言葉に皮肉な力をこめて言いつづけた。「お前のお母さんなのかい。そこを上っておいで。廊下の奥の料理場へ行けば、ルイザに会えるよ。」
彼はますます顔を赤らめながら歩いて行った。母がなれなれしくルイザと呼ばれたのを聞いてきまりが悪かった。一種の屈辱を感じた。もうそこを逃げ出して、親しい河岸に駆けてゆき、いつもみずからいろんな話を考えるあの藪《やぶ》の後ろに、はいり込んでしまいたいような気もした。
料理場へ行くと、彼は他の多くの召使どもの中にはいり込んだ。皆は騒々しく囃《はや》したてて彼を迎えた。奥の方の竈《かまど》のそばで、母はやさしいまた多少困ったような様子で、彼に微笑《ほほえ》みかけていた。
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