上手《じょうず》に演奏することができた。またごく話し上手で、多少鈍重ではあるが様子がよく、ドイツにおいて古典的な美男子とさるる型《タイプ》に属していた。落着いた広い額、道具の大きな正しい顔立、縮れた髯《ひげ》、まったくライン河畔のジュピテルであった。ジャン・ミシェル老人はこの息子の成功を楽しみにしていた。彼はみずからいかなる楽器をもうまく演奏することができなかったので、達人の技芸に接するとそれに聞き惚《ほ》れるのだった。確かにメルキオルは、自分の考えを表現するのに困難を覚ゆるような男ではなかった。不幸なことといえば、何にも考えないことだった。そして彼自身はそんなことを気にもしなかった。彼はまさしく凡庸《ぼんよう》な役者と同じ魂をもっていた。凡庸な役者は、台詞《せりふ》の意味には気もかけず、ただ台詞回しにばかり注意し、聴衆に及ぼすその効果を、得々として細心に見守っているものである。
最もおかしなことには、ジャン・ミシェルもそうであったが、彼は舞台上の自分の態度にたえず気を配っていたし、また社会的因襲を恐れ尊んでいたけれども、それにもかかわらずなお、調子はずれな突飛な軽率な様子をいつもも
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