、相変わらず働きつづけ、朝から晩まで町中を駆け回った。彼はいたって器用で、さまざまの仕事を捜し出していた。楽器の修繕もやり出した。種々くふうをしたり、試みにやってみたり、時には改良の方法をも発見した。また作曲もし、そのために勉強もした。かつて壮厳ミサ曲[#「壮厳ミサ曲」に傍点]というのを書いたことがあった。彼はそれをしばしば口にのぼせ、それは一家の名誉となっていた。書いてるうちに脳溢血《のういっけつ》を起こしかけたほど苦心を重ねたものだった。それを彼は天才的な作品だと無理に思い込もうとしていた。しかしいかに空虚な思想で書かれたものであるかは、みずからよく知っていた。そしてもはやその原稿を読み返すこともしかねた。なぜなら、自分の独創になったものだと信じてる楽句の中に、他の作曲家らの手になった断片が、むりやりにどうかこうか綴《つづ》り合わせられてるのを、読み直すたびごとに見出したからである。それは彼にとって非常な悲しみの種だった。時とすると、実に素敵なものだと思えるような思想が彼にも浮かんできた。すると身を震わしながらテーブルに駆け寄った。こんどこそはついに霊感《インスピレーション》をとら
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