狂ったように足を踏み鳴らした。大公はそれを面白がっていた。しかし矢面に立った楽員らは、彼にたいして恨みを含んだ。ジャン・ミシェルは自分の狂気|沙汰《ざた》を恥じ、すぐその後で、おおげさなお世辞をつかって忘れてもらおうとつとめたが、徒労であった。ふたたび何かの機会がありさえすれば、ますますひどく疳癪《かんしゃく》を破裂さした。その極端な癇癖《かんぺき》は、年とともにつのってきて、ついに彼の地位を困難ならしめた。彼はみずからそれに気付いた。そしてある日、例のとおりひどく怒りたったために、全楽員の罷業《ひぎょう》が起ころうとした時、彼は辞職を申出た。けれども多年の功労の後なので、辞職聴許はむずかしかろうし、居据《いすわ》りを懇願せられることだろうと、ひそかに期待していた。ところがそうではなかった。そして申出を取消すには自尊心が許さなかったので、彼は人々の亡恩をののしりながら、悲痛な思いで職を去った。
それ以来彼は、毎日何をして暮していいか分らなかった。もう七十歳を越していたが、まだいたって元気だった。それで、出稽古をしたり、議論をしたり、無駄《むだ》口をたたいたり、あらゆることに立交じって
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