次のように結論しやすかったから。「もしあんな偉い人が徳義をもっていなかったとするならば、徳義などということは大したものではない、最も大事なのは、偉い人になるということだ。」しかし老人は、自分のそばにようやく一人立ちをしかけてる幼い思想については、露ほどの察しもなかった。
二人はそれらの素敵な話をめいめい自己流に考え耽《ふけ》りながら、いずれも黙っていた。――ただ途中で祖父が、自分を贔屓《ひいき》にしてくれてる上流のだれかが散歩してるのに出会うと、そうはいかなかった。祖父はいつまでも立止って、低くお辞儀をし、やたらに追従《ついしょう》的なお世辞を並べたてた。子供はそれを見て、なぜともなく顔を赤くした。しかし祖父は、既成権力と「成上り者」とにたいしては、心の底に尊敬の念をいだいていた。話の主人公たる英雄らを彼があれほど好きだったのは、よく成上りえた人物を、他の者より高い地位に達しえた人物を、彼らのうちに見出していたせいかもしれなかった。
ごく暑い時には、老クラフトはよく木蔭にすわった。そして間もなく仮睡することが多かった。するとクリストフは祖父のそばで、ぐらぐらする石積の横の方や、標石
前へ
次へ
全221ページ中40ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング